つい聴き惚れてしまう…至高のボーカル鑑賞
〈アニソン〉は、歌(ボーカル)と楽器の伴奏で構成されています。私たちは〈アニソン〉を聴くとき、これらを一緒くたにしてたのしんでいるわけですが、あえて意識して〈ボーカル〉だけに耳を傾けてみたらどうでしょう? 〈ボーカル〉も、楽器とおなじように奏でられる〈音〉と考え、音色や音の響きを味わうのです。
ここでは、私が「つい聴き惚れてしまうボーカル」を挙げてみます。ぜひあなたも、あらためてボーカリストたちの〈歌声〉の魅力をご堪能ください。
記事中の空白部分は書き手の意図によるものです。
理由はわからないけどいつの間にか好きになっていた[佐咲紗花]
私が本サイトに集めた無数のアニソンを歌うボーカリストのなかで、とくに強烈にココロに訴えかける。そして、気づくと好きになっていた。それが佐咲紗花さんの歌声です。ココロに直に働きかけてくるので、なぜ好きになっていたのか。コトバではうまく説明できません。たんに歌唱力が高いだけなら、ほかにも優れた歌い手はたくさんいます。でも、佐咲紗花さんのボーカルは特別なのです。
聴いている側もカラダが動きだしそうなほどパワーに満ち、それでいて優しさも感じさせる。若い女性ボーカリストらしい可愛らしさを含みながらも、男勝りのワイルドさも持っている。ところどころで少しねっとりした湿り気もあるのだけど、全体的にはサラサラとした耳ざわり。相反するさまざまな味わいを持ちあわせたボーカルといえるでしょう。
ここで紹介するのは、高校のオートバイ部を舞台にしたアニメの主題歌。荒々しさのなかに、ときどき顔を出す可憐さに注目したいところです。
甘ったるい歌声で耳と脳が蕩ける[石田燿子]
歌は耳で聴くものだけれど、ときに舌に“味”を感じさせることがあります。さらに、なんだか“色”で目もたのしませてくれそう。石田燿子さんの歌声を聴くと、なぜか口のなかに甘ったるい“砂糖”のような味が広がり、さらには声に“乳白色”の色合いが見えてくるのです。
その甘さは、シュガーをたっぷり振りかけたドーナツのように、頭にツーンと突き刺さる“攻撃的”なものではなくて、食べものに控えめに寄りそうような、そんな優しさを感じさせます。
もしも歌声が甘すぎたなら、いったん味わえば「もういらない」となるでしょう。けれども、石田燿子さんの甘味は、けっして飽きがこないのです。何度でも堪能できる。満足感が小さくなりません。
ここでお聴きいただくのは、主人公の女の子たちがアニメ業界で作品づくりに励むアニメの主題歌。きらびやかなイメージとともに“シュガー・ボーカル”が脳に響きます。
透明で爽やかな“風”が私たちを高みにつれていく[亜咲花]
亜咲花さんの歌声を色で表わすとしたら“透明”。そう。色はついていない。どんな気分のときでも気軽に味わえる、とっつきやすさがあります。別のモノにたとえるなら、歌声は“風”。それも湿り気のない爽快感あふれる“風”。カラダにまとわりつくと心地よく、同時に聴き手のココロを高みにつれていってくれる。そんな貫録があります。
女性ボーカリストならではの繊細な歌いかたでありながら、力強さも持っていて、とくにビブラートは聴く者に生きる活力を与えてくれるような気がします。
亜咲花さんの魅力を堪能できる楽曲はいくつもありますが、今回はキャンプをモチーフにしたアニメの主題歌を聴いてみましょう。まさに大自然のなかで吹く爽やかな“風”です。
恋の真実は色気たっぷりの男声で表現する[PENGUIN RESEARCH(生田鷹司)]
女性の歌い手ばかりでは、いささか不公平かもしれないので、男性ボーカリストの歌声も聴いてみることにしましょう。
先に、女性ボーカリストならではの「甘味」についてお話ししましたが、男性に「甘味」がないわけではありません。「色気」「艶」は、ふつうは女性の魅力を表わす言葉ですが、男性のボーカルを形容するのに使ってもいいでしょう。その一例といえるのがPENGUIN RESEARCH(ボーカル:生田鷹司)です。
ここでは、ちょっと変わったラブストーリーが展開するアニメの主題歌を紹介します。恋愛の甘酸っぱさや切なさが表現されていて、「色気」や「艶」に男女は関係ないことがあらためてわかります。
人生の悲哀が滲み出る中年オトコのボーカル[竹原ピストル]
最後にとりあげるのは、「色気」や「艶」とは無縁といっていい中年オトコのボーカルです(「色気」や「艶」はあくまで聴く側の感覚によるものなので、中年オトコに見出してもいいのですが)。竹原ピストルさんの歌声は、およそアニソンには似つかわしくない感じがします。しかし、それは悪しき先入観というもの。作品によっては、これほどイメージにぴったり合う歌声はほかにありません。
ここでお聴きいただきたいのは、中年オトコが主人公のアニメの主題歌です。中年オトコの悲哀が的確に表現されている歌声といえますが、かといってそれほど深刻な印象も受けません。どこか軽妙さも漂っているのが魅力です。
今回は、5人のボーカリストに焦点をあて、その魅力について語ってきました。もちろん、ほかにも魅惑的なボーカリストはたくさんいます。これからも、歌詞や伴奏だけでなく、ボーカルそのものに耳を傾けて聴きくらべをしてみる。ときどき、そんな遊びに興じたいと思っています。
お時間がありましたら、それぞれ楽曲のレビューもぜひご覧ください。
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