• HOME
  • レビュー
  • 特集
  • アニメとは一味ちがう映像体験★アニソンのミュージックビデオ・セレクション

アニメとは一味ちがう映像体験★アニソンのミュージックビデオ・セレクション

特集

〈ミュージックビデオ(MV)〉を観るのが好きです。〈音〉を耳でたのしむだけでなく、〈画〉を目で味わう。アニソンはアニメの主題歌ですから、アニメのオープニングやエンディングの映像がそのままMVといえるわけですが、アニメとは別にMVが制作されているものがあります。ここでは、アニメとは一味ちがう映像体験を満喫できる作品を紹介しましょう。

記事中の空白部分は書き手の意図によるものです。

1.ココロもカラダも踊ってパワーがみなぎる【ダンス系ビデオ】

マイケル=ジャクソンの「スリラー(Thriller)」以来、MVといえば楽曲に合わせて大人数でダンスをするのがセオリーとなりました。アニソンのMVも例外ではありません。「可愛らしい」「キレがある」「パワフル」など、さまざまな魅力を持ったダンスシーンが印象的なMVをまずは鑑賞してみましょう。

昔なつかしい昭和の街で現代のダンスを披露する[A応P / はなまるぴっぴはよいこだけ]

〈昭和〉の香りが漂う町中で、若いお嬢さんたちが踊りを披露します。舞台が〈昭和〉なのは、昭和アニメのリバイバル作品の主題歌であることを意識しているのでしょう。楽曲が疾感あふれる曲調なので、ダンスもパワフルです。ふつうの人が観れば「可愛らしい」と思うパフォーマンスだと思うのですが、なぜか私は「あざとい」と感じてしまいます。といっても、それはけっして悪いことではありません。なぜ「あざとい」のかを考えると、ギャグアニメの主題歌だから、という答えが見つかります。全編にとぼけた雰囲気が漂っているので、「可愛らしい」が「あざとい」に見えてしまっている。そこが味わい深い。そんなふうに分析しました。あなたにはどう見えますか?

『おそ松さん』のオープニング主題歌

“幸せな学校生活”を元気いっぱいのパフォーマンスで表現する[Rhodanthe* / Jumping!!]

本作も踊っているのは若いお嬢さんなのですが、彼女たちはアニメの登場人物を演じる声優さんです。衣装も劇中のそれを模していて、踊っている場所も学校の教室。もちろん、それぞれ自分たちの演じるキャラクターとして歌っていますから、さながらアニメの実写版といった趣です。表情や踊りっぷりはじつにたのしそう。にぎやかなビジュアルエフェクトも加わって、“幸せな学校生活”をイメージさせます。もしもこんな雰囲気の学校があるとしたら? そこはもう“天国”かもしれません。つまり、この世には存在しない場所。映像を通してそんな幻想の世界に浸るのも一興といえましょう。

『きんいろモザイク』のオープニング主題歌

夢の中でにぎやかな歌と踊りのハーモニーを味わっているような[どうぶつビスケッツ×PPP / 乗ってけ!ジャパリビート]

こちらも歌って踊るのはアニメのキャラクターを演じる声優さんたち。やはり衣装はそれぞれのキャラクターをモチーフにしています。バックにオーケストラを従え、ミュージカルの舞台をイメージしたMVになっています。ボーカリストが大人数なので、にぎやかなハーモニーとビジュアルを味わえるのが魅力。画面の色味に手が加えられ、生身の人間がパフォーマンスをしているような鮮やかさはあえて取りのぞかれています。虚構世界のキャラクター(二次元)と現実世界の人間(三次元)のギャップが巧みに埋められているわけです。観る者がその場に居合わせる臨場感よりも、あたかも夢のなかで彼女たちの舞台を眺めているような〈幻想感〉をご堪能ください。

『けものフレンズ2』のオープニング主題歌

3Dモデルが踊る新感覚のビジュアル体験を味わえる[鹿乃 / なだめスかし Negotiation]

「なにをいまさら」「いまごろ気づいたの?」と言われそうですが、MVも新時代を迎えています。本作で踊るのは、3Dモデルのアバター。パフォーマンスをするのはアニメのキャラクターではなくボーカリストですから、アニメとはまた異なるビジュアルイメージを構築しているわけです。踊っている場所はバーチャル空間で、背景が目まぐるしく変化していきます。その変幻自在を楽しむのも一興。3Dモデルとはいえ、ダンスの表現力は実写の人間とくらべても遜色ありません。いや、人間とはまったく別次元の表現力で、比較すること自体が時代遅れかもしれませんね。まだまだMVの可能性を感じさせますね。

『宇崎ちゃんは遊びたい!』のオープニング主題歌

2.見えない〈音〉の世界を想像力で視覚化した【アート系ビデオ】

MVのなかに広がる世界は特別です。無造作にカメラを向けて映ったものをただ流しているのではなく、撮影する前後に緻密な作業をほどこして映像がつくられています。画面に映るものが実在するものであったとしても、作り手の想像力によって、映像のなかにだけ存在する世界が構築されているのです。それは、楽曲の〈音〉を目に見える〈カタチ〉にしたものといえます。では、アニソンのMVではどんな〈カタチ〉がつくられているのか確認していきましょう。

もしもポップな〈音〉に彩色したらどうなるかわかる[GARNiDELiA / アイコトバ]

まずは画面からあふれ出す〈色〉に目を奪われます。「音楽に彩色したらこんな色合いになる」と、観ている側も腑に落ちます。ボーカリストがさまよう、〈色〉の付いた〈街〉も素敵。どこかにありそうだけど、どこにも存在しない街。映像の主役たるボーカリストの表情やしぐさ・衣装・ダンスも楽曲の魅力を引き出しています。後半はライブスタジオに場所を移しますが、やはりさまざまな〈色〉が飛びかいます。歌声はとても大人っぽいのに、映像に映るものはことごとく可愛らしい。そのミスマッチの妙を存分に味わってください。

『アニメガタリズ』のオープニング主題歌

お洒落で可愛いビジュアルが夜の街を彩る[ORESAMA / Trip Trip Trip]

モチーフは〈夜の街〉。ビルの屋上をボーカリストが軽やかに歩いていきます。ネオンの光が画面を彩り、アメコミ風のイラストも飛んできて賑わいますが、デザインが統一されているので品が下りません。ダンスにもキレがあり、弾けるような曲調が映像のポップな世界を広げていきます。興味深いのは、ギャグテイストのアニメのイメージにぴったりマッチした楽曲なのに、それを表現するMVは洗練されお洒落である点。本来ならMVもギャグテイストになるはずです。でもそうなっていないのはなんとも不思議。チャーミングでたのしさあふれる映像に目が釘づけになり、何度でも観返したくなりますね。

『魔方陣グルグル』のオープニング主題歌

アイドルのはずなのに映像は“無機質”で“非人間的”な味わいの[イヤホンズ / それが声優!]

パフォーマンスを見せるのは声優アイドルユニット。「アイドル」をイメージしたパステル調の色をつかいながらも、彩度が下げられ無機質な映像が展開します。フレームレートも落とされているので、彼女たちの動きはまるでロボットのよう。全編にシュールな雰囲気が漂っているのが印象的です。歌詞ではアニメ業界の厳しさを歌っているわけですから、キレイゴトばかりを言ってはいられない。つまり、ただ可愛らしいとか洗練されているだけでは、楽曲の世界観を表現できないのでしょう。といっても、べつに暗いムードに満ちているわけではなく、歌も踊りもパワフルで、観ているだけでたのしい気分になってくるのですから、MVの力は偉大です。

『それが声優!』のオープニング主題歌

3.MVならではのショートドラマがたのしい【ストーリー系ビデオ】

3〜5分ほどの短い時間にちょっとしたストーリーが展開する。笑ったり泣いたり感動したりと、ココロを動かされる。まさに小さな映画。それは、楽曲の〈音〉だけでは味わえないMVならではの醍醐味といえるかもしれません。アニソンのMVでは、アニメのイメージに沿った世界が展開したり、あるいはまったく関係ない方向に突っ走ったりと、バリエーションはさまざま。どんなストーリーが展開しているのか、実例をチェックしてみましょう。

ウカウカしていると話についていけない[i☆Ris / FANTASTIC ILLUSION]

〈手品〉をモチーフにしたアニメの主題歌なので、このMVでもマジックショーが展開。楽曲そのものにストーリー性があるので、MVにも自然に物語が生まれています。大勢のお客さんを前に披露するショーだけあって、画面も大にぎわい。ボーカリストたちがパフォーマンスを繰りひろげるわけですが、本作も「あざとい」感じを受けます。やはり全体にとぼけた味わいが漂うから、「可愛らしい」が「あざとい」に見えるのでしょう。場面が矢継ぎ早に入れかわるので、ウカウカしているとおいてけぼりにされます。しっかり気合いを入れて鑑賞に臨みましょう。

『手品先輩』のオープニング主題歌

画面で展開するストーリーの意味を深く考えてはダメ[上坂すみれ / POP TEAM EPIC]

建物の地下とおぼしき空間で女が目覚めます。彼女が何者なのか不明。地下で暮らしている目的もわからないけれど、違法な手段で居座っているのはまちがいなさそう。そんな“無法者”によるシュールな世界が展開します。ストーリーのような流れはあるものの、理由や設定を細かく考察するのは無意味。「シュールな」アニメの主題歌なのですから、そのハチャメチャぶりに身を委ねるのが本作の正しいたのしみかたといえます。考えるな、感じろ!

『ポプテピピック』のオープニング主題歌

ライブ会場へ急ぐ彼女が体験したことはすべて……[DESTINY]

もうすぐライブの開演時間。会場へ急ぐメンバーの様子をカメラは追っていきます。道中でさまざまな障害が立ちはだかり、ライブの開始が怪しくなっていきます。はたして彼女は無事に会場にたどりつけるのか? ……と、ちょっとしたハラハラドキドキを味わえるMVです。彼女が体験したことの数々。それらすべてが「DESTINY(運命)」だった——というわけで、キレイに整いました!

『銀魂゜』のエンディング主題歌

アニソンのMVには、アニメの映像とは別の味わいがありますが、かといってアニメのイメージを損なっていないのは興味深いところです。たまにはこんな映像体験も乙なものですね。

お時間のあるかたは、楽曲のレビューもおたのしみください。

ピックアップ記事

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。